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大阪高等裁判所 平成9年(ネ)151号 判決

控訴人

株式会社サンビルダー

右代表者代表取締役

杣浩二

右訴訟代理人弁護士

滝本雅彦

北山真

右訴訟復代理人弁護士

柴田眞里

被控訴人

山口昌子

被控訴人

森絹枝

右両名訴訟代理人弁護士

奥村孝

石丸鐵太郎

堀岩夫

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

三  原判決主文第一項3及び第二項3に「平成八年三月一八日から」とあるのをいずれも「平成七年三月一八日から」と更正する。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人らの控訴人に対する請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文第一、二項と同旨

第二  当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決七頁一行目の末尾に続けて、次のとおり付加する。

「しかし、控訴人は、本件マンションが住宅金融公庫の融資を受け、敷引きが禁止され、敷金が六〇五号室については一四四万円、五〇五号室については一四六万七〇〇〇円に制限されていたために、敷金として各一五〇万円を受領しながら、本件賃貸借の契約書の上で敷金を一二〇万円と記載し、別途に三〇万円の領収証を被控訴人らに対し交付したのであり、敷金が一五〇万円であることを否定できない。」

2  同七頁末行の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「本件賃貸借契約は、賃料その他の契約条件、契約締結時の社会的状況等からみて、単に雨露をしのぐ空間の提供を目的とするものではなく、現代的生活を支える諸設備の整ったマンションの居室の賃貸借を目的としているのであり、本件マンションは、地震により水道、ガス、電気、水洗便所、エレベーター等の基本的諸設備が機能しなくなり、火災の熱、臭い及び煤によって被害を受けたから、本件居室における食事、就寝、用便等の居住生活に極めて不便な状況となった。被控訴人山口の下の階の四〇五号室の賃借人が居住し続けたとしても、全面的な使用収益が可能であったというものではない。本件居室の臭いと煤が容易にとれたということはない。」

3  同八頁一〇行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「すなわち、被控訴人らは、平成七年一月中に控訴人に連絡をとり、同月中に本件マンションで控訴人担当者と面談し、本件居室に居住することができないので本件賃貸借契約を解約すると申し入れた。被控訴人森は、控訴人に対しユニットバスの歪みを指摘したとしても、修繕を要求したのではなく、被控訴人らは地震後本件居室に全く居住しておらず、退去の交渉をし、一貫して賃料の支払を拒絶していたのであるから、被控訴人らが同年一月中に解約の申し入れをしたことは明らかである。」

4  同九頁六行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「仮に地震によって目的物が滅失して本件賃貸借契約が終了したとはいえないとしても、被控訴人らは、本件居室を契約の目的に従って使用することを全面的に制限されていたのであるから、民法五三六条一項の類推適用によって平成七年一月一七日以降の分の賃料の支払義務がない。」

5  同一〇頁六行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「本件賃貸借契約の契約書一四条に定められた賃借人の原状回復義務は、通常の使用に伴う汚損、損耗について、敷引きがないことを前提にして賃借人の負担と定めたものであり、本件の場合、敷引きがなされるのであれば被控訴人が原状回復義務を負うことはなく、地震による室内の汚損、クーラーの損壊の補修までも賃借人である被控訴人らが負担するいわれはない。本件賃貸借契約の重要事項説明書には、契約物件が天災地変、風水火災等によって損壊したときは賃貸人の負担とするとの定めがある。したがって、被控訴人らは、本件賃貸借契約の終了に当たり、本件居室の原状回復をする義務を負わない。」

6  同一四頁四行目の「本件特約の存在」の次に、「並びに敷金に関する規制」を付加する。

7  同一四頁一〇行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「控訴人が本件賃貸借契約を締結した際に被控訴人らからそれぞれ受領した一五〇万円のうち一二〇万円が敷金であり、三〇万円が前家賃のような形で交付された預り金である。控訴人は、被控訴人らの希望した敷金一五〇万円、うち三〇万円の敷引きをし、賃料を月九〇〇〇円減額するのでは賃料、敷金の相場に較べて安すぎるため明確に断った。そこで、被控訴人らは、毎月の支払を少しでも少なくするため、各三〇万円の支払と引換に毎月の賃料を九〇〇〇円減額するように求め、控訴人は、前家賃として被控訴人らからそれぞれ三〇万円を預かり、右預り金から毎月の家賃のうち九〇〇〇円に充当することにし、被控訴人らはこれを承諾して本件賃貸借契約を締結したのである。」

8  同一五頁八行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「本件マンションのうち本件居室の内部の損傷は軽微であり、賃借人が居住して生活することが十分に可能であった。食事は、ガス、水道が止まっていたものの、電気は早期に復旧したから、電気調理器具で料理をすることができ、食事をとれる状態であった。就寝することは当然可能であった。三〇五号室の火災の影響により他の居室に臭いが充満し、クロス等に煤のついたことがあったが、その煤はバケツ一杯の水と中性洗剤で拭きとることができ、控訴人は、その旨本件マンションに掲示して入居者の協力を求めた。被控訴人らが他の入居者がしたのと同様に右の方法で早期に本件居室の煤を拭きとれば、悪臭が消えて居住に差し支えがない筈であった。本件居室の水洗便所も使用できた。下水の排水管が平成七年二月末日から三月八日まで使用できなかったほかは、排水は可能であり、本件マンションの前に自衛隊の給水車がきており、入居者はバケツで水を運んで水洗便所を使用していたのである。本件居室で入浴はできなかったが、地震の被災地全域で自宅での入浴ができないのは通常の事態であった。したがって、本件居室の使用が全面的に不能であるとか、全部制限されていたというものではない。現に、被控訴人山口の下の四〇五号室の入居者は地震以後現在まで継続して居住している。」

9  同一六頁一行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「被控訴人らが控訴人に対し平成七年一月末日までに本件賃貸借契約の解約を申し入れた事実はない。むしろ、被控訴人森は、同年二月一日に控訴人に対しユニットバスが歪んでいるから直して欲しいと申し入れている。被控訴人らがそれぞれ控訴人に送付した内容証明郵便でも、同年一月末日までに本件賃貸借契約の解約を申し入れたと記載していない。控訴人は、同年二月二三日に被控訴人らから解約の申入れを受けたのであるから、契約書の定めによれば同年三月二三日に賃貸借契約が終了するところ、同年三月一〇日を明渡日と定めて合意解除したのである。」

10  同一六頁二行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「本件居室は、地震に被災した後も住居として使用することができたのであり、そうでなく、賃貸人が修繕すべきところその義務を履行しなかったとしても、賃借人は、民法六一一条所定の賃料減額請求権が発生するに過ぎない。被控訴人らは賃料減額請求権を行使していないから、控訴人は、被控訴人らから受領した平成七年一月分の賃料のうち、一月一七日から三一日までの一五日分について不当に利得しているものではない。」

11  同一六頁一〇行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「本件賃貸借契約においては、敷引きをしない代りに、原状回復の費用(エアコン償却費、畳、クロスの貼替)を賃借人が負担することと定められていた(契約書一四条、一五条)。被控訴人らが退去に当たりクロスの貼替をしたのは当然の義務の履行であり、控訴人が不当に利得したものではない。

控訴人は、本件賃貸借契約を締結した際に、将来の被控訴人らの退去時の清掃費用として二万円の支払を受けていない。控訴人は、賃貸借契約が終了して明渡を受けるときにならないと判明しない清掃費用を予め賃借人に支払わせるようなことをしていない。」

12  同一七頁末行の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「仮に控訴人が前記三〇万円を敷金として受け取ったとしても、契約期間二年間の月九〇〇〇円の割合による賃料の値引額が二一万六〇〇〇円であることからすると、実質的な敷金額は八万四〇〇〇円に過ぎないから、これによって賃借人の原状回復義務を免除したと解することはできない。

仮に賃借人の通常の使用に伴う汚損、損耗の原状回復費用を右敷金をもって充てる趣旨であるとしても、被控訴人らの居住した本件居室のクロスの貼替、清掃、畳の交換は、被控訴人らが控訴人の指示に従った煤の拭取をしなかったこと、通常と異なる使用をしたことによって、損害が発生、拡大したものであるから、右敷金をもってまかなうことができない。

仮に本件賃貸借契約を締結した際に被控訴人らが控訴人に支払った各一五〇万円が全額敷金であったとしても、賃貸借契約の終了に伴う本件居室の原状回復は被控訴人らの義務であるから、控訴人が敷金から原状回復のための補修費用を控除したことは不当利得とならない。」

13  同一九頁五行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「3 本件賃貸借契約の締結の際に被控訴人らから控訴人に支払われた各三〇万円が敷金であり、これが通常の使用に伴う汚損、損耗の原状回復に要する費用に充てられるものであるとしても、賃借人の責に帰すべき事由によって発生し、拡大した費用がこれに含まれるものではない。本件居室のクロスの貼替及び清掃の必要が生じたのは、煤をバケツ一杯の水と中性洗剤で容易に拭きとることができたのに、被控訴人らがこれを怠り時機を失したことによって発生したものであり、畳の交換は、被控訴人山口が畳一枚について表替えすらできないような異常な状態にしたのであるから、いずれも、通常の使用に伴う汚損、損耗の範囲を超えている。」

第三  証拠

証拠の関係は、原審及び当審記録中の各書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、被控訴人らの本訴請求は、原判決が認容した限度で理由があるから認容すべきであると判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二〇頁一〇行目の「本件特約の存在」の次に、「並びに敷金に関する規制」を付加する。

2  同二一頁六行目の「被告代表者本人尋問の結果」の前に、「原審及び当審における」を付加する。

3  同二三頁三行目の「退去時の清掃費」とあるのを「被控訴人らが入居するに当たって本件居室を清潔にするための清掃費」と改める。

4  同二四頁末行の末尾に「(甲一七、二〇)」を付加する。

5  同二七頁末行の末尾に、次のとおり付加する。

「(控訴人は、本件居室の排水は平成七年二月末日から同年三月八日まで使用できなかったほかは排水は可能であったと主張し、右期間以外はバケツで水を流せば便所を使用することができたという九〇二号室の四元紀久の証明書(乙一〇)はこれに沿うものである。しかし、本件マンション全体としておおむねそのようなものであったとしても、本件居室の排水を使用しないようにと言われていたとの原審における被控訴人山口の供述を覆すに足りない。)」

6  同二九頁末行の末尾に「(甲九ないし一一、一四、一五)」を付加する。

7  同三〇頁五行目の末尾に「(甲一六、乙三)」を付加する。

8  同三一頁二行目の末尾に「(甲八、乙五)」を付加する。

9  同三一頁八行目の末尾に「(甲一九の1・2、二二の1・2)」を付加する。

10  同三一頁八行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「以上の事実を認めることができる。

控訴人は、本件マンションの内部の損傷は軽微で、本件居室に被控訴人らが居住でき、電気調理器具で調理が可能であり、バケツ一杯の水と中性洗剤で火災による臭いや煤を取り除くことができ、給水車から水を運べば水洗便所の使用が可能であり、入浴できなかったが被災地共通の問題であり、本件居室の使用が不能であるとか、全部制限されていたというものではないと主張する。しかし、先にみたとおり、平成七年一月一七日から同年三月一〇日まで、本件マンションには上水道、ガスの供給が再開されず、本件居室は、玄関扉と廊下との間のプレートが落下し、玄関扉の足下が約一五センチメートルの幅で欠落し一階まで吹き抜ける状態で危険が感じられ、室内は五〇五号室ではその内装がすべて煤で黒くこげたようになり、網戸・カーテン・照明器具・エアコン室内機・台所の戸棚などが熱で溶けて使用不能となり、バルコニーの樋やエアコン室外機も焼けたり曲がったりして壊れ、サッシ窓のガラスにひびが入っており、六〇五号室もその内装が煤で汚れ、網戸・カーテンが溶けて使用不能になり、バルコニーの樋やエアコン室外機も壊れ、サッシ窓のガラスが一か所で破れ、多数のひびが生じていたというのであり、震災及びその後の火災によるものであって、控訴人の責に帰すべきことではなく、被災地全体の復旧がなければ本件居室のみすみやかな復旧が期待できなかったとはいえ、使用が全部制限され、被控訴人らが本件賃貸借契約を締結した目的を達成できない状態であるということができる。本件居室において電気調理器具を使用することができ、バケツで水を五階或いは六階まで運べば水洗便所を使用することができたとしても、被控訴人らにとっては本件賃貸借契約の目的を達成するにはほど遠い状況といえる。四〇五号室の入居者が地震以後現在まで継続して居住していることは、右認定判断を左右するものではない。」

11  同三二頁四行目の末尾に続けて、次のとおり付加する。

「控訴人の主張するように右三〇万円が賃料の前払であるとすれば、被控訴人らは賃料の値引を求めたのに、値引きを受けられないままに賃料の一部として三〇万円を前払したことになるが、控訴人の提示した募集条件よりも賃借人に不利益になることであり、前記認定の交渉の経緯からみて右主張は理由がない。

控訴人は、被控訴人らの申し出が賃料、敷金の相場に較べて安すぎるため明確に断り、各三〇万円を賃料の前払として受領したと主張する。しかし、控訴人が被控訴人らに交付した各三〇万円の領収証には賃料の前払として受領する旨の記載がなく(甲一七、二〇)、右主張は理由がない。右認定に反する当審における控訴人代表者の供述は信用できず、控訴人代表者作成のメモ(乙六)、マンションの賃料及び敷金に関する仲介業者作成の証明書(乙一二の1ないし4)は、右認定判断を左右するものではない。」

12  同三三頁三行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「控訴人は、被控訴人森が平成七年二月一日に控訴人に対しユニットバスが歪んでいるから直して欲しいと申し入れているし、被控訴人らがそれぞれ控訴人に送付した内容証明郵便でも、同年一月末日までに本件賃貸借契約の解約を申し入れたと記載していないから、被控訴人らが控訴人に対し同年一月末日までに本件賃貸借契約の解約を申し入れた事実はないと主張する。控訴人の事務所の電話控帳(乙九)の同年二月一日欄には被控訴人森から控訴人の事務所にユニットバスの歪みを伝える電話があった旨の記載があり、しかも、被控訴人らが控訴人に対し本件賃貸借契約の解約の申入れをした旨の記載は見当たらない。しかし、六〇五号室の修理を要する個所は他にもあり、右時点における上水道の復旧の見通しがないことからして、右電話控帳のユニットバスの歪みを伝える記載が賃貸借の継続を前提として修理を求めた趣旨とは解されないし、又、右電話控帳が控訴人と賃借人との電話による交渉を網羅しているとも認め難い。本件居室明渡後の同年三月一八日に控訴人に配達された被控訴人らの内容証明郵便による申入れに、被控訴人らが同年一月末日までに本件賃貸借契約の解約を申し入れたとの事実を具体的に記載しているとは認められないが、右内容証明郵便による申入れは、敷金及び同年一月一七日以降の支払済みの賃料の返還を求める趣旨のものであって、解約申入れの事実を確認するためのものではない(甲一九の1・2、二二の1・2)。むしろ、被控訴人らは、賃料の支払期限が毎月二八日と定められているのに、同年一月二八日を徒過して二月分の賃料を支払っていないことからすると、同年一月中に本件賃貸借契約を解約する意思を控訴人に伝えていたことが推認される。したがって、控訴人の右主張は採用できない。」

13  同三四頁二行目の「不可能力」とあるのを「不可抗力」と改める。

14  同三五頁三行目から同八行目までを、次のとおり改める。

「天災によって賃貸借の対象物が滅失に至らないまでも損壊されて修繕されず、使用収益が制限され、客観的にみて賃貸借契約を締結した目的を達成できない状態になったため賃貸借契約が解約されたときには、賃貸人の修繕義務が履行されず、賃借人が賃借物を使用収益できないままに賃貸借契約が終了したのであるから、公平の見地から、民法五三六条一項を類推適用して、賃借人は賃借物を使用収益できなくなったときから賃料の支払義務を負わないと解するのが相当である。

控訴人は、被控訴人らが本件居室を使用できなかったとしても、賃料減額の問題であり、民法五三六条一項が類推適用される問題ではないと主張する。しかし、先に述べたとおり、これを賃料減額の問題のみで処理することは相当でないというべきである。

賃貸借契約は、賃料の支払と賃借物の使用収益を対価関係とすることからみて、賃借物が滅失したときには賃貸借契約は終了し、賃借物が滅失するに至らなくても、客観的にみてその使用収益ができなくなったときには、賃借人は当然に賃料の支払義務を免れると解すべきであるが、更に、建物や居室の賃貸借契約において、建物や居室が天災によって損壊されて使用収益が全部制限され、客観的にみて賃貸借契約を締結した目的を達成できない状態になったため、賃貸人による修繕が行われないままに賃貸借契約が解約されたときにも、公平の原則により、双務契約上の危険負担に関する一般原則である民法五三六条一項を類推適用して、解約の時期を問わず、天災による損壊状態が発生したときから、賃料の支払義務を免れると解するのが相当である。

先にみたとおり、本件居室は、兵庫県南部地震によって損壊し、使用が全部制限され、被控訴人らが本件賃貸借契約を締結した目的を達成できない状態になったために、賃貸人による修繕が行われないままに解約されたのであるから、被控訴人らは右状態が発生した平成七年一月一七日から、本件居室の賃料の支払義務を負わないというべきである。」

15  同三七頁二行目から三行目にかけての「また、本件賃貸借契約に際しては、退去時の清掃費用も前払いされているから、」とあるのを、次のとおり改める。

「被控訴人らは、先にみたとおり、本件賃貸借契約を締結した際に控訴人に交付した敷金のうち各三〇万円については、通常の使用による汚損、損耗の原状回復のために要する費用に充てるものとして返還を受けられないのであるから、賃貸借契約終了後の退去時に特別の費用を負担して清掃を行うことを義務づけられていないというべきである。」

16  同三七頁六行目の「原告両名につき各二万円である。」を、次のとおり改める。

「清掃業者からの清掃費の見積金額は二万四五一四円であるが【甲一一】、六〇五号室と五〇五号室とで汚損に違いがあることからみて適正額が必ずしも明確でないので、控え目にみて被控訴人らについて各二万円の限度で認める。」

17  同三八頁七行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「控訴人は、右三〇万円のうち賃料の値引額が二一万六〇〇〇円で、実質的な敷金額は八万四〇〇〇円に過ぎないから、これによって賃借人の原状回復義務を免除したと解することはできないと主張する。しかし、先にみたとおり、控訴人は、右三〇万円を受領することによって賃料を月九〇〇〇円減額することにしたものではあるが、右三〇万円は返還を要しない敷金であるから、これによって、通常の使用による汚損、損耗についての賃借人の原状回復義務を免除したと解するのが相当である。」

18  同四〇頁五行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「控訴人は、本件居室のクロスの貼替、清掃は、被控訴人らが控訴人の指示に従った煤の拭取をしなかったことによって、損害が発生、拡大したもので、畳の交換は被控訴人山口の異常な使用によるものであるから、右敷金をもってまかなうことができないと主張する。しかし、先にみたとおり、火災による悪臭と煤は本件居室の全部に及んでいるのであり、特に五〇五号室は煤がひどく、バケツ一杯の水と中性洗剤で拭きとることができたとは認め難いし、被控訴人山口が畳一枚を異常な方法で使用したとの証拠もないから、控訴人の右主張は理由がない。」

二  結論

以上の理由により、被控訴人らの本訴請求は原判決が認容した限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきであり、右と同旨の原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用し、原判決主文第一項3及び第二項3に「平成八年三月一八日から」とあるのはいずれも誤記であることが明白であるから「平成七年三月一八日から」と更正することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福永政彦 裁判官 井上正明 裁判官 礒尾正)

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